2015年9月30日水曜日

高域を分離してビットクラッシュする提案

周波数帯によってアタックのスピードが違いすぎるんですよね。リリースに向かってゆっくり高周波が出てくる音とか、これはEQやコンプでどうにもならないという素材もあり、最近はっきりと理解しました。。。 (watさんのツイートより)

 watさんがおっしゃっているのは、高域のアタックを、元の時間より前にせり出すような形で、他の帯域より時間的に速く届くようにする、ということだと思います。鏡音リンレンで、本当の最初期にシグナルPさんたちと話したりしてはまっていたのは、マルチバンドコンプでの処理で、ディエスもついでにやっつけてしまえ、というものでした。
 これでは、処理がコンプのアタックやリリースの能力に左右されたり、当時はまだFIR仕様のマルチバンド分割が主流でなかったりと、問題も多かったです。07年は、マスタリング業者が市場にせり出してキャンペーンを始めた時期なので、マルチバンドコンプへのエンジニア的な疑いの目も強かったです。
 そこでyuukiss先生は、帯域を、たとえば高いのと低いもの、ふたつにFIR系のEQで分離したトラックを作っていました。これに好きなコンプなどを突っ込めばマルチバンドというわけですね。私はそのとき、時間軸上で高い周波数の方を前に出していました。
 さらにもう一苦労をします。汗をかく高級表現です。
 高域のアタックは減退します。ここまでは、どこにでも書いてあります。ここから先が問題で、この減退を数理論理的に再現ないし管理が可能な形で補うためには、たとえば、高域のトラックに、ビットクラッシャーでビットをクラッシュさせて歪ませ、アタックを補正するという方法があります。これにより、デジタルな算数の形でデータを削り、必要情報を取り出しているわけですね。MPCの古いサンプルの方が音が厚い、なんていわれるのも、おそらくこういう説明で納得がいきます。あとはきちんと元にミックスして調整します。
 効果は音の「明るさ」の調整です。言い換えると、高い周波数の領域を適度に歪ませ、それを自然に聞こえる程度の状態にミックスしているということです。マスタリングでギターアンプや真空管シミュなど「アナログの音」を入れる、というのも、これは高域の歪みに理由を求めて、納得することができます。あとは、テープ系はサーチュレーションだけではなくて、ピッチの揺らぎもあるので、そう簡単で単純なことはいえないですが。
 元々、こういった帯域ごとの周波数分離と時間別の処理は、ギターのシールドとかオーディオのケーブルで有名なモンスターケーブル(ギズモードでは叩かれていたけれども、あれは無視していい)、赤い筐体で高域のアタックを歪ませているBBEなどで用いられます。ミックスでは馴染みがないですが、マスタリングではよく使うそうですね。ウェーブレット変換という形で、こうした手法と認識が工学の領域に現れるのは、実はずっと後のおはなしです。こういうものは、目に見えないですからね。
 この話は、yuukiss先生が説明した時点で誰も理解できていなかったです。かなり複雑です。けれども、基本的には

1. 帯域分離と時間軸上で高域が他より先に出力されるように調整
2. 高域を歪ませる

というふたつになります。この場合の低域はアタックを遅めにして、俗にいうところのパンチの効いた感じを出すということになるのでしょうね。
 他方(まあそううまい話はない)、周波数帯域の「完全」な分離は現状ではできないため、どうしてもカブリがでてしまい、下手をするとトラック相互で遅延が生じ、フランジャーのかかったような高域になってしまいます。ミックスの段階でボーカルだけに補正をするとか、楽器の製造段階でその楽器だけに繊細に繊細に細密に細密に、それこそ音程ごと「必要に応じて」適用しておくとか、そういった味付け以上にはならないです。万能薬はないんですよね。
 で、自分でもこれ、さっきいろいろやってみました。やはり効果は抜群だ。まあそんなこんなで、音楽を楽しむという。