2011年5月16日月曜日

【雑記】 管理不可能なネットワークでも音楽は殺されない

■管理不可能なネットワーク
管理不可能なネットワークで音楽は生き残ることができるか、つたない形ですが丁寧に考えていきます。音楽を含め、少し広くなるとビデオ、PVなどの映像、少し先にはテキスト(不倫チャットや機密資料など)で、管理不可能なWinnyに流れると取り返しが付かない、セキュリティに問題がある、そうマスメディアでは報道されておりました。しかし情報流出の問題とは別に、著作権の問題というタテマエに隠れた、コンテンツの収益化の部分に影を落としていたと、以前から考えておりました。


『Winnyの技術』
WinnyのようなPureP2Pネットワークと、Webに代表されるクライアント/サーバ方式(金子『Winnyの技術』P14を参照)、そしてBit Torrentのようなハイブリッド方式にあって、音楽はどうなるだろうか、という疑問です。47氏は「管理不可能」であると商業的にならないということをGLOCOMでおっしゃっていました。濱野智史さんが報告なさっているこちらから、少しWinny後の金子さんの考えを探ってみます。 


最後に金子氏は,次世代P2Pシステムのための課題を二つ挙げている.第一に「Winnyはオープンシステムにならないのか」という問題,第二に「P2Pシステムは管理できないのか」という問題である.


ここでは、主に後者の疑問「P2Pシステムは管理できないのか」という部分を問題として考えたいです。金子さんはこの管理できないことに関して、以下のように考えていたようです。

第二に,P2Pの管理可能性の問題である.先述したように,純粋なP2P(ピュアP2P)では任意のノードがダウンしてもネットワーク全体に影響を及ぼ さないため,耐障害性は強いとされている.しかしこれは裏を返せば,管理可能性が弱いとも言えるのだ.例えば,個人情報を含む名簿ファイルなどが Winny上に流出した場合,これを管理者が一挙に削除するような仕組みは存在せず,永遠にファイルが流通し続けてしまう.実際,海外のP2Pファイル共 有ソフトウェアをめぐる裁判では,純粋なP2Pのサービスは管理者不在であるため,開発者や運用会社の責任は追及できず,ユーザーへの裁判が集中してい る.しかし金子氏は,この問題は技術的な欠陥に過ぎないと強調する.金子氏は,ピュアP2Pでも管理可能性を実現するアイディアがあるが,現在刑事裁判で係争中のためWinnyの改良に手をつけることができないと述べ,講演を締めくくった

どういうことかというと金子さんは、耐障害性に強い代償として管理可能性が弱いピュアP2Pという認識があるけれども、それは技術的欠陥であり、管理可能性を実現するアイデアがある、と述べ、管理不可能性は欠陥と位置づけています。その後、金子さんはSkeedCastというハイブリッドP2Pを開発されることになります。

つまりは、欠陥であり、そこから管理可能であればコンテンツを流通させることが可能である、こういうことです。しかし僕は、どうやら管理可能なWinnyで曲がやりとりされても、収益化は可能であった、いや別のスキームの台頭によって実現可能になった、と、こう考えます。
 
■エア本さんのムーブメントに学び、走らさせていただいてます
ボカロに前後して、エア本さんが現れました。これは収益は問題となりませんが、一度アップロードされたものはウェブ上でも拡散し、消すことは難しいのだということを教えてくれました。消すと増える、という言葉は、このことを大変上手く示しているでしょう。つまり、管理可能なクライアント/サーバ方式のWeb上でも、愛、いや信心さえあればいくらでも、コンテンツは残り続けるということです。とくにニコニコの運営が怠惰であったということではなく、消してもパワーアップして、もはや人気はうなぎのぼり。ここで、管理可能であれば商業的に収益を上げられるという既成概念に対し圧倒的な矛盾が生じたのです。これは、わずかな素材で実質管理不可能性をWeb上に作り上げた、革命(マイレボリューション)でした。


■ボーカロイド
ボカロで僕は直接にいろいろな事例を見た後、困難な状況ではあったけれども、なんとしても収益化(マネタイズ)まで行かないと駄目だ、と考えていました。なぜそう考えたのかは、よくわかりません。しかし、ネットが大好きで、コンテンツと称されるものを収益化することは難しいと知っていましたから、収益化までは行こうと考えました。


ここで、明確に二つの方法が考えられます。ひとつは、同人という形で出来上がりつつあったマーケットに出す方法。もうひとつは、表の作法でCDなどになって出る方法


個人的な立ち居地として簡単に説明させていただくと、僕は根っから同人をやっていました、という人ではなくて、僕自身も、やってしまって大きくなったことが興味深かったのです。そして、こうした状況で、遠く東京中心である同人ではなくて、地方から表に出したときに、どうなるのか。そのとき、たとえばPureP2Pのような俗に「管理不可能」とされるネットワークにあっても商業と並存し得るのか、考えていました。しかし、実際には同人の状況をからめて、この疑問を解決してみたいと考えます。


■ソーシャルと同人
初期にいざこざはありましたが、2007年、同人系の方々は「はつねぎ」というSNS(同じではありませんがmixiのようなものです)を通じてコミュニケーションやコラボを行っていたようです。同人というと、さらに以前はオタクの楽しみだと捉えられておりましたが、バラバラではなく、タテマエとして趣味と同好の方々であり、元々ネットワークは大変に強いです。イベントでは名刺を必ずいただきます。大抵の場合、東京か、その周辺でこうしたイベントは行われていて、集まった方々はほぼ東京中心という印象を持ちました。


こうした中で、コンテンツの作り手が独自のネットワークを築き、次にSNS「にゃっぽん」と、前後してピアプロが生まれました。それからひと月のうちに、ロードローラーが出てきました。自分の曲をニコニコで見ていると、客層は最初は正月休みの大人でしたが、次第に子どもたちに人気が出てきたと考えます。


もう一度返って、ソーシャルと同人は相性が抜群でした。しかし、それは東京を中心としたかなり限定的なものでもあります。


■ソーシャル化と同人マーケットの拡大
ウェブ上では、資金まで完結しませんでした。ニコニコ動画というのは、とにかくコンテンツに関しては後回しで(JASRAC関係で問題になって、勝手にやってくださいということだったのかもしれないですが)、自社のプラットホームにかかる利益を追求していました。当然、同人は即売会を開きます。ここで飲み会などを通して、あるいは懇親会などで、最初は音楽のノウハウを共有していましたが、そのうち「編集」 ができる方々がコンピレーションという形でも関わってくれるようになり、気軽に参加できる感じになりました。そして、即売会の規模は大きくなり、かなりの額が動いたと思います。実は、同人でやっていたほうが表に出すよりも利益はとんでもなく出ます。具体的言明は避けますが、本当に大きいです。オリコンなんて比ではないわけです。


■管理不可能でなぜ収益化できたか
方法はふたつ、レコ協を通して販売するか(利益はかなり少ない)、同人で出すか。レコ協モデル、つまり市販のCDには、東京に行けない人がそれでも欲しいという場合に、その感情を埋めてくれますし、セールスがよかったらボーカロイドの知名度向上という点で製造販売元に恩は返せると考えて、それはそれでメリットがあります。しかし、あくまで管理に注目すると、管理不可能状態はコメントなり含め発生しているわけで、どちらかというと後者は大変だけれども、高度で堅実だと考えます。 今更ですが、「ソーシャル」が管理の可不可によらず、ウェブを道具・PRのひとつとして(収益がなくてもいい)、ヒトの手を伝わって価値を現金という形で回収するモデルになりました。これは本当に面白いなと思います。それで、僕自身の疑問も、はれて解決したのです。


■問題点
管理不可能性は、ソーシャルというヒトの手を介して、またCDやDVDという物をやりとりします。そのとき、転売などでは作り手の意思とは別に管理不可能が生まれます。今後それらがどうなっていくのか、ここではまだ解決しないです。


それでも、Winnyの47氏が解決できなかった作り手にとっての管理不可能性の部分は、時間を経て解決しました。この流れを、いま一度見直してみることに意義があると考えます。


Winnyのネットワークシミュレーション(金子・P179)